「なんでもおもしろがって、バカバカしいことに手数と熱を込める」藤井亮のサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

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クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」

映像作家の藤井亮さんは、石田三成をPRした滋賀県のCMやNHKの特撮番組『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』など、いわゆる“お笑い”とは異なる文脈で、ナンセンスな作品を数多く手がけている。藤井さん流の映像作品の作り方や、日常をおもしろがるためのヒントなどについて聞いた。

藤井 亮 ふじい・りょう
映像作家/クリエイティブディレクター/アートディレクター。武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン学科卒業後、電通関西、フリーランスを経てGOSAY studiosを設立。滋賀県の石田三成CM、『ミッツ・カールくん』(Eテレ)、キタンクラブ『カプセルトイの歴史』、『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』(NHK)など、考え抜かれた「くだらないアイデア」で作られた遊び心あふれたコンテンツで数々の話題を生み出している。

初めて作った映像で、教室がどっと沸いた

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──1979年生まれの藤井さんが手がけられるものからは、同世代の人たちが幼少期に触れていた昭和のコンテンツのムードを感じます。藤井さんご自身はどんな子供で、どんなものに影響を受けていたのでしょうか。

藤井 愛知県出身なんですけど、本当に普通の田舎の子供でした。当時の子供がみんな好きだった『週刊少年ジャンプ』、ファミコン、キン消し(キン肉マン消しゴム)が好きで、親は公務員で、3人兄弟の真ん中で、特筆すべきクリエイター的エピソードが全然ないんです。

──何か変わったものが好きとか、ちょっと変わったところがあるわけでもなく。

藤井 全然。ただ、絵を描くことは好きで、小学生のころは隣の席のヤツを笑わせるために、先生を主人公にしたキャラクターがひどい目に遭う漫画を描いたりしていましたね。常に誰か見せたい対象がいて、自分の内面を掘り下げるようなもの作りをしたことがないという点は、今につながるかもしれません。

──その結果、美大に進学するようになったんですね。美大ではどんなことを学んでいたのでしょうか。

藤井 武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科は、いわゆるグラフィックデザインをやる学科で、入学当初はカッコいいグラフィックやCDジャケットを作りたいと思っていたんです。でも、「映像基礎」という授業をきっかけに、映像にズブズブとハマっていっちゃって。

機材の使い方もわからないまま、自分で絵コンテを描いてくだらないコントみたいな映像を作ったんですけど、それを流したら教室がどっと沸いたんですよ。今まで絵を描いたりしても味わえなかった体験で、気がつけば、4年生までずっと変な映像ばっかり作る生活になっていました。

──授業と関係なく映像を作っていたんですか?

藤井 そうです。今考えるとどうかしてるなと思うんですけど。発表する場もなく、見せるあてもないのに、映画っぽい映像や手描きのアニメーションなど、節操なくあれこれ作っていました。

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──藤井さんの映像には、お笑い的なものとは少し異なるテイストのおもしろさがあると思うのですが、その点で影響を受けた人や作品はあるのでしょうか。

藤井 お笑いをあまり観てこなかったことがコンプレックスだったりもするんですけど、そういう意味ではマンガの影響はあるかもしれないです。学生のころは『伝染るんです。』や『バカドリル』など、不条理系といわれるマンガを読んで「こういうの作っていいんだ」と衝撃を受けました。

──たしかに、自分の感覚的なおもしろさを理屈抜きで表現しているという意味では、藤井さんの作品にも通じるものを感じます。では、学生時代のもの作りとして、思い出深い作品などはありますか?

藤井 学園祭ですかね。学園祭が好きで、模擬店を「藤子Bar不二雄」という全員、藤子不二雄キャラのコンセプトカフェにするとか、無駄にがんばっていたんです。最終的には実行委員になって、学園祭のポスターや内装などを作ったりもしました。

デザイン部門として、作れるものは全部作って。テーマもバカバカしく戦隊ものにして、大学の入口に巨大ロボの顔をどーんと設置したり、教室を基地みたいにしたり、顔ハメ看板を置いたり。子供みたいにバカなことをやるのも、当時のまま変わってないですね。

──バカバカしい思いつきを徹底して具現化させる執念みたいなものも、現在に通じるような気がします。

藤井 ベースの思いつきはしょうもないんですけど、作り込みでどうにかごまかそうとするところはありますね。当時から、自分には少ない手数でセンスのいい作品を作ることはできないと薄々わかってきていて。それで、数の暴力というか、とにかく手数と熱量でどうにか突破するしかないと思っているところがありました。

やりたいことをやるために、主張し続ける

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──広告代理店に就職されたのも、映像を作るためだったのでしょうか。

藤井 映画やアニメなどの映像作品の最後には広告代理店のクレジットが入っているから、ここならいろいろな映像を作れるだろうと、ちょっと勘違いして受けちゃったんです。

でも、アートディレクター採用みたいな感じだったので、最初はポスターやロゴのデザインしかやらせてもらえませんでした。それでも、やっぱり映像を作りたくて入ったので、企画だけは出し続けていましたね。

──自分の希望を声に出したり、かたちにしたりすることって大事ですよね。

藤井 そうですね。特に新人のときはおもしろいと思ってもらえる手段もないので、どうでもいい役割に力を入れるなど、とりあえず主張し続けていました。会社の宴会の告知のために、めちゃくちゃ凝ったバカバカしいチラシを作って会社中に貼ってみたり。結果、それが目に留まって、おもしろい仕事をしているチームから声がかかるようになったんです。

──最終的にはCMを手がけられるようになった。

藤井 ただCMの場合、代理店のCMプランナーは、基本的には企画までしかやらせてもらえなかったんです。監督は制作会社のCMディレクターが担当していて。でも、僕は映像を考えるだけでなく作ることもやりたい。それで、自分でも監督する方向に勝手に変えていきました。

「全然やれますけど」みたいな雰囲気で、「今回、僕が監督やりますんで」って言っちゃう。内心は「どうやったらいいのかな……?」って思ってましたけど、まずはできるフリをしてやるしかないなと(笑)。

──実際には監督経験がないわけで、そのギャップはどう埋めていったんですか?

藤井 冷や汗かきながら勉強したり、人に聞いたりしていました。それでも、やっぱり最初は演者さんに怒られたりしましたね。段取りも何もできていなかったので。失敗したら次はないと思うほど、どんどん空回りしてしまったというか。

ただ、現場と噛み合わなくても、本気で何かをやろうとしている気持ちは伝わるのか、そのCMを見た方が別の仕事で声をかけてくださることもあって。「あんまりヒットしてないけど、こいつは変なことを一生懸命やろうとしてるな」みたいな。

架空の世界を、実際にあるかのように作り上げたい

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──現在は藤井さんの作風に惹かれた方々から、さまざまなコンテンツの依頼が来ているかと思いますが、企画の段階ではイメージが伝わりにくいものもあるんじゃないでしょうか。

藤井 僕は作っているものはおもしろ系なんですけど、プレゼンは低いテンションで淡々と進めることが多くて。企画の意図や構造を丁寧に説明していくので、ふざけたものを作ろうとしているとは思われないこともあって、意外とすぐに「いいですね」と言っていただけることが多いです。

それこそ、石田三成のCMは滋賀県のPRコンテンツのコンペで提案したんですけど、「怒られるんじゃないかな」と思いながら説明したら、その場で「これがいいですね、やりましょう」という話になって。選んでくれた方の度量がすごいんですけど。

石田三成CM<第一弾>

──制作自体もまじめに淡々と進めているんですか?

藤井 そうですね。作り手側はそんなにふざけていないというか、おもしろがっていないところはあります。作る側がおもしろがるのと、見た人がおもしろがるのはちょっと違うと思っていて。内輪で盛り上がっている感じが出ていると、僕はちょっと冷めちゃうんですよね。みんながまじめに作ったんだけど、結果的に変なものになってしまった、みたいなおもしろさが好きなんです。

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──作品のテイストとしても、世の中にある「まじめにやってるけど、どこかおかしい」といったズレに着目し、そのエッセンスを取り込まれていると思います。そのために日頃からアンテナを張っていたりするのでしょうか。

藤井 日常にある違和感を探すのは好きですね。そのうえで、自分がグッとくるものに対して「なぜグッとくるんだろう?」と深掘って考えるようにしています。そうやって深掘りしていくと、そのままパクるのではなく、エッセンスを取り出すことができる。パロディというよりシミュラークル(記号化)というか。何かをまねしたいのではなく、架空の世界を実際にあるかのように作っていくのが楽しいんでしょうね。

だから、企画のテーマが決まると「いかに本当にあったか」というディテールを詰めていきます。1970年代の特撮作品をモチーフにした『TAROMAN』を作ったときも、岡本太郎のことはもちろん、特撮文化についてもめちゃくちゃ調べました。そうしているうちに、当時の特撮にあったであろう何か、ディテールが見えてくるんです。

TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇 PR動画

──『TAROMAN』はキャストのしゃべり方からして違いますよね。本当に1970年代に録音したんじゃないかと思いました。

藤井 最初は役者さんに昭和っぽくしゃべってもらおうと思っていましたが、初日にやめようと決めて、全部アフレコにしました。やっぱり役者さんでも昭和っぽくしゃべるのって難しいんですよ。だから、役者さんは昭和っぽい顔で選んで、声は声で昭和っぽくしゃべれる方を探しました。結果的に声と口の動きが微妙にズレているんですけど、それが逆に昭和の特撮っぽくなったというか。当時の特撮も実際にアフレコだったりするので。

──そういったディテールをかたちにするために、『TAROMAN』ではご自身でどこまで担当されたんですか?

藤井 企画、脚本、監督のほかに、キャラクターデザインや絵コンテ、アニメーションのイラスト、背景作りなど、思いつくことはあらかたやっています。もちろん、撮影、編集、ジオラマ制作など、信頼できる人にやってもらった部分もたくさんありますけど。

とにかく世界観だけはブレないよう気をつけたので、膨大な手直しが必要でした。編集の段階に入ってからも、1カットずつ確認して背景を作り直したり、色を変えたり、タイミングをズラしたりして。

──そのこだわりがあの世界観を支えていたんですね。では今後、同じくらい熱を入れてみたいこと、興味のあることなどはありますか?

藤井 基本的に「やったことのないことをやりたい」と思っているのですが、なかなか難しいですね。今は生活の半分くらいが育児になっているので。でも、子供向けのコンテンツをたくさん摂取していることも、インプットにはなっているんです。何かしらおもしろがれるところはあるし、「こうしたらいいんじゃないか」と考えることもある。それもどこかで活かせたらいいですね。

おもしろがれるかどうかは、自分次第

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──藤井さんは、仕事の手を止めてついついサボってしまうようなことはありますか?

藤井 Wikipediaのリンクを踏み続けて何かの事件をずっと調べるとか、延々とネットを見ちゃうことはありますね。ただ、直接仕事とは関係なくても、どこかでつながるような気もしているので、そういう意味では明確にサボりとは言えないというか、サボるのが上手じゃないかもしれません。根っこの部分では、生活が下手なタイプなんですけど。

──生活が下手?

藤井 もともと怠惰な人間なので、仕事や育児をやることでギリギリ人のかたちをさせてもらってるというか。だから、家族がちょっといないだけで、洗いものが山積みのまま朝4時まで起きてるとか、一気に生活がぐちゃぐちゃになってしまうんです。休みを有意義に過ごすのも苦手で、無理して出かけることもありますが、気を抜くと家でダラダラとマンガを読んじゃったりします。

──ダラダラするのもリフレッシュにはなっているんでしょうね。意識的に息抜きをするようなことはないのでしょうか。

藤井 いろんなものに依存したいなとは思っていて。コーヒーでカフェインを摂るとか、いろんなものに依存して、自分の「依存したい欲」、「責任を放り投げたい欲」を分散したいんです。というのも、普段は父親であったり監督であったりすることで、どうしても依存される側、責任者側になってしまうので。

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──ほかにどんなものに依存しているんですか?

藤井 最近はお酒も飲まなくなったので、人がハマっているものに付き合わせてもらったりしています。サウナ好きの人にサウナに連れていってもらうとか。あと、子供の趣味にも積極的に付き合うようにしています。電車が好きだったときは鉄道博物館に行ったり、新幹線を見に東京駅に行ったり、『ウルトラマン』にハマったときは一緒にショーに行ったり。

そうすると、それまでは何百回と東京・大阪間を往復しても何も考えずに新幹線に乗っていたのが、「お、今日はN700Sか!」と車両に注目するようになったりして。どうでもよかったことの解像度がぐっと上がるのがおもしろいんですよね。

──先ほどのお子さんと子供番組を観ている話も同じというか、なんでも楽しもうと思えば楽しめる。

藤井 ある意味、何を見てもそんなに苦じゃないんですよね。おもしろがれるか、おもしろがれないかは自分次第で、おもしろがる力があれば何かしら楽しみ方は見つけられるものなので。

──そういった経験が、結果的にお仕事にも役立っているんですね。では、シンプルに落ち着く時間、好きな時間はありますか?

藤井 風呂ですかね。「会社を辞めよう」とか、大きな決断はだいたい風呂場でしてるんですよ。それも家の風呂じゃなくて、銭湯とかで決断したり、考えたりすることが多くて。だから何かを決めた記憶は、たいてい風呂の天井のイメージと結びついてるんです。

──それまでなんとなく考えていたことが、お風呂でかたちになるんですかね。逆に、何か結論を出そうとお風呂に行っても、うまくいかないかもしれないですね。

藤井 そうかもしれないですね。意識してやるとうまくいかない気がします。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

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