『告白』『コード・ブルー』『鎌倉殿の13人』…数多の名作を経験した女優・山谷花純の素顔
#16 山谷花純(前編)
旬まっ盛りな女優やタレントにアプローチする連載「focus on!ネクストガール」。
山谷花純(やまや・かすみ)。オーディションを経て、ドラマ『CHANGE』(2008年/フジテレビ)で女優デビュー。2015年、『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(テレビ朝日)に“モモニンジャー”役として出演。女優としてドラマ、映画への出演を重ね、主な出演作は映画『劇場版コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』(2018年)、映画『フェイクプラスティックプラネット』(2020年)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年/NHK)、『親友は悪女』(2023年/BSテレ東)など。現在、NHK連続テレビ小説『らんまん』に“宇佐美ゆう”役として出演中。植物を思わせる装いで現れた彼女に、まずは来歴から伺うことに。
「focus on!ネクストガール」
今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。
地元・仙台から東京に通う、駆け出しの日々
──業界に入ったきっかけからお伺いできればと。
山谷 きっかけは、もともとお芝居に興味があって入ったわけではなく、むしろテレビの仕組みを知りたかったんです。子供のころはテレビって生放送だと思っていたんです。同じ人が一瞬でCM出演者になったり……CMの仕組み自体も理解していなかったので、なぜ同じ人が数秒間の間にまったく違う姿になるんだろう? テレビって、どのように成り立っているのかを疑問に思っていました。その疑問を解き明かすには、自分もテレビの中に入ってしまえば理解できるのではないかと思ったんです。
小学校の学活の時間で、将来の夢について話す機会がありました。そのときに私がテレビに出たいと言ったことを覚えていた担任の先生がavexのオーディションがあるよと教えてくれました。全国的なオーディションが行われるとのことで、受けてみることにしたんです。
オーディションでは、歌手、モデル、女優という3つの部門から志望動機を選ぶ必要があって……女優という職業は具体的に何をするものなのか知らなかったし、なんとなく歌もあまり好きではなく、モデルだけはある程度イメージができました。それでモデルの部門に○をつけたんですけど、身長が高くなかったので、自然な流れで女優の部門に進むことに。それをきっかけに、お芝居に触れる機会が増えていった感じですね。
──先生に勧められるかたち……珍しい、あまり聞かないですよね。
山谷 そうですね。私は倖田來未さんが大好きで、所属されている事務所のオーディションが地元の仙台でも行われると聞いたので、妹と一緒にオーディションを受けることにしました。
当時は、倖田來未さんになりたいというような憧れよりも、自分たちを楽しませてくれてかっこいい!素敵!輝いている!という感じで、ファンとして素敵だなと思っていました。
──テレビの中で輝いているというような……。
山谷 そうです、まさに。
──実際に業界に入ってみて、どうでしたか?
山谷 初めて親元を離れて東京に出てきて、大人が対等に接してくれるというか……一緒に作品づくりをするという過程を映画の現場で学んだときに、お芝居っておもしろいなと思いました。
それまではお芝居が具体的になんなのかもわからなかったし、ただ、テレビのオーディションに合格して受かって、エキストラのようなセリフのない役を演じたときに、親が喜んでくれたことがちょっとうれしかったみたいなことはありましたけど。
具体的にこの仕事が楽しいと思ったのは、映画『告白』(2010年)です。現場はとても大変でしたが、大人たちが本当に必死にひとつの作品を作り上げていく姿を目の当たりにして、とても衝撃を受けました。
大人が本気になっている姿を見ることもなかったし、その中で子供たちにも真剣に向き合ってくれる中島哲也監督が印象的で。作品が評価されて、多くの人に観てもらえたというところにもモノ作りのおもしろさを感じて、それからはもっと映画を観よう、お芝居を上手になりたい、と思うようになりました。
──レッスンを重ねて積み上げていくというよりは、早い段階で現場に放り込まれるみたいな……。
山谷 そうですね。もともと宮城に住んでいて、高校まではそこで過ごしていました。小学6年生のときに仮契約を結んで、最初は通えるかどうか、ひとりでやっていけるかという不安もあったので、1年間はおばあちゃんが現場に一緒に行ってくれたんです。台本の読み方など、共演者の子役のお母さんたちに教えてもらうこともありましたし、スケジュールの香盤表の見方も教えてもらったり、手探りで学ぶことが楽しかったです。いい経験だったと思います。
『告白』『コード・ブルー』『鎌倉殿の13人』…名作の現場で経験を積む
──『告白』は……実際に撮影現場にいたわけではないのでわかりませんが、中島監督の演出はすごいという評判を聞きますし、怖いともいわれていますよね。
山谷 超怖かったです(笑)。でも、中島監督は本当に作品への愛情が強くて、ひとつのクラスの生徒の中で、どんなに端の席に座っている子でも、新しいことをしようとする姿を見てくれるんです。あとから、このシーンのときにこの子を使ってみようかというような感じになったり……撮影が進行していても、まるでオーディションに参加しているような気持ちになることもありました。それってある意味、みんなに平等だともいえるので、だからこそ信頼が深くなったのかもしれません。
──その後もさまざまな作品に出演されていますが、印象に残っているものはなんですか?
山谷 最近の作品では、20歳を超えてからになるのですが……特に『劇場版コード・ブルー』と、昨年出演した『鎌倉殿の13人』は私にとって大きなターニングポイントとなる作品です。『コード・ブルー』は、この仕事の進路について悩んでいたときに出会った作品でした。役を通じて命や人間性について学ぶ機会を与えていただいて……この役がなかったら、今の私は存在しないと思っています。心身ともに大変な作品でしたが、そのぶんやりがいもありましたし、多くの人に観てもらえて認知されることで、この仕事の素晴らしい側面を再認識することができました。
──あの役づくり(剃髪)は、ご自分で……。
山谷 作品に出演する条件で、坊主にする必要があったんです。
──なるほど。
山谷 その条件ありきでオーディションを受けていたのですが、やっぱり頭を丸めると身が引き締まる感じがありますし、覚悟も決まるものなんだなと感じました。当時の私はそういうきっかけを求めていたのかもしれません。偶然の運とタイミングが重なって、その役との出会いを通じて、再び仕事にがんばって取り組む決意ができました。
その後、5年経って初めて大河ドラマに出演する機会を得ることができました。10年以上の役者経験があるにもかかわらず、まるで右も左もわからない、大河ドラマという世界に改めて立つことができて、とてもワクワクした反面、怖さもありました。でもそれがすごく楽しくて(笑)。初心に戻ることができた現場でしたね。もちろん作品自体も素晴らしいもので、先輩方にも恵まれましたし、再び自分が成長するきっかけを与えてくれた作品でしたね。
──時代劇は、『鎌倉殿の13人』が初めてですか?
山谷 何回かは経験がありますが、羽織を着て位の高い役を演じるのは初めてでしたね(笑)。『鎌倉殿の13人』への出演をきっかけに、以前一緒に仕事をした方から連絡をいただいたり、この10年間を、再会も含めて、もう一度振り返る機会があって、それは積み上げてきたものを再び固めるような……関係性や経験を再確認するというか。30歳に向けて、10代のときの経験を再び深める機会になりましたね。
特撮の撮影現場は“遅れてきた学生生活”
──その10年の間には、特撮などもありましたよね?
山谷 特撮は私にとっては冒険のようなものでした。同年代の子たちと1年間を過ごすという冒険。私は、小学6年生から仕事を始めていたので、キチンとした学生生活を送ることが難しかったんです。友達はいましたが、同級生と長い時間を過ごすことはほとんどありませんでした。なので、戦隊(特撮)の撮影現場は、遅れてきた学生生活のような感覚に近かったですね。そうそう、ちょうど5月の初めぐらいに、久しぶりに戦隊のグループLINEが動いたんです。5月末にはみんなで集まろう!って。でも、誰もそのあと話をまとめないんです(笑)。
──特撮のときの坂本浩一監督はどうでした?
山谷 坂本監督とは、戦隊での撮影以前から何度か一緒に仕事をしていました。坂本さんとはおもしろい縁があって……『劇場版コード・ブルー』の撮影が終わったあと、1カ月お休みをいただいて海外旅行に行っていたんです。その中で選んだ場所のひとつがL.A.で、偶然にも坂本さんの奥様と息子さんが住んでいて、2週間ホームステイさせていただきました。時差があるので、こちら(日本)からすると夜なのですが、向こう(L.A.)では朝なので、毎朝起きたら(日本にいる)坂本さんとテレビ電話で、ご家族と一緒に朝食を食べながら一日を始めるという経験をしていましたね。東京に坂本さんの奥様と息子さんがいらっしゃったときにも、一緒に食事をしたりしています。
──坂本監督の演出も熱いですよね。
山谷 おもしろいです、監督は。つい最近も「久しぶりに一緒にアクションをやりたいです」と連絡したら、「ちょっと待っててねー」って(笑)。
──ボクも『白魔女学園』(2013年、2015年)のとき、東映の撮影所に何度かおじゃましました。
山谷 (最上)もがちゃん!
──ですです。山谷さん、出演なさってましたよね。朝まで撮影していることが多くて、坂本さんの演出が熱いなぁと、ずっと見ていました。
山谷 はい、その後も何度か一緒に仕事をさせていただいたんですけど、やっぱり坂本さんならではの色がありますよね。坂本さんのアクションの撮り方は、監督の個性が見えていて、すごくおもしろいです。撮影される側としても、何を撮りたいのかがすごくわかるのでやりやすく……ちょっと久しぶりに、大人になった山谷として、また坂本監督の現場に立ちたいと思っています。
──ほかにも、たとえば、海外で賞を受賞した映画『フェイクプラスティックプラネット』(2020年)がありますよね。この作品は、ご自分の中でどのような位置づけになりますか?
山谷 これは、初めて自主制作というかたちで物づくりに関わらせていただいた作品です。監督が予算を集めて、一から脚本も書いて作るものだったので、非常に思いが詰まった作品でした。私は現場で隣にいて、監督の思いに応えたいと思いましたし、監督が撮りたいものを残したいという気持ちが強かったです。大変な制作でしたが、スタッフの一員としても垣根がなかったのが楽しかったですね。監督と出演者というよりも、同志のような感覚で一緒に戦って、いい作品を残したいという意識がとても強かったので、結果的に海外で評価していただけたのは、あの時間を経たからこそ、たどり着けた場所なんだろうなと思います。また宗野賢一監督と一緒にやりたいですね。
──なるほど、縁をすごく大事にしているんですね。
山谷 初めての人と一気に距離を縮めることは得意ではないんですけど、一度一緒に仕事をした人はもう仲間だと思っています。その中でも気が合う人とは頻繁に会わなくても、ふとしたときに連絡を取り合ったりしています。
舞台がつないだ、生駒里奈との仲
──今まで共演した方で、仲のよい方はいますか?
山谷 実は、共演している人よりも、共演していない人のほうが仲がよかったりするんです。生駒里奈と仲がいいんですけど、一緒に仕事をしたことはないんですよ(笑)。
──生駒さん!
山谷 不思議ですよね(笑)。生駒が出演していた舞台を客席で観ていて、私が出演している舞台を生駒が客席で観てくれていたんです。その時点では会ったこともないし、話したこともないけれど、なんだか仲よくなれそうな気がしました。この世界は意外と狭くて、たまたま生駒が出演していた「劇団少年社中」という劇団の作品に、私もその次に出演することになりました。その劇団の人を通じて知り合い、数回の食事会を重ねてやっと連絡先を交換したという(笑)。それから5年ぐらい経つんですけど、まだ一度も仕事を一緒にしてはいないんです。
生駒と会うと、プライベートや将来のことなど、なんでも話します。話せないことがないくらい仲のいい人といわれると、彼女が一番に思い浮かびますね。
──舞台の話が出てきましたが、舞台を演じる際に、ほかの仕事と違う感覚はありますか?
山谷 すごく緊張します。
──それは、本番勝負みたいなことでしょうか? お客様もいるし。
山谷 まったく違う感覚なんですよね。映像でのお芝居のときと、舞台に立っているときとでは全然違う。わからないことがたくさんあって、必死になっています。ここ最近はシェイクスピアの作品に出演させていただいているので(※『ヘンリー八世』『終わりよければすべてよし』/彩の国さいたま劇場)、新たな扉を開けたという感じもあります。ほかの仕事のときは複数の仕事を並行してこなせるのですが、舞台のときは一点集中型になって視野が狭くなる感覚があるので、たぶん余裕がなくなるんだろうと思うんです。自分自身、いろんなことがまだ足りていないと気づかされる瞬間もありますが、それでも舞台はやっぱり楽しいです。大変なこともありますし、やっている最中は早く終わってほしいと思うことも多々あるんですけど(笑)。時には「つらい」と思う瞬間もありますが、大変な思いをしながらも、お客様の顔を見たり、少しずつ積み上げてきたことが褒められたときなど、がんばってきてよかったなと感じる瞬間があるので、舞台は続けていきたいです。
──なるほど。この演出家さんの舞台に出てみたい!という方はいますか?
山谷 そうですね、三谷幸喜さんの作品に出演してみたいです。舞台ではなく、映像で続けてご一緒したので。三谷さんの舞台は何が起きるかわからないし(ご自分が代演を務めてでも、舞台を)止めることもしない。そのリアリティさも三谷さんのエンタテインメントとして活かされていて、素敵だなと思います。また、最近『鋼の錬金術師』(2023年)の舞台などを演出されている石丸さち子さんの舞台にも出てみたいです。石丸さんは蜷川幸雄さんの演出助手を務めていた方で、海外の戯曲を日本人に親しみやすく演出してくれるんです。照明なども洗練されていて美しい作品に仕上がっているのを客席から観て、素敵だなと感じました。今は、憧れの演出家として、このおふたりと一緒に仕事をしたいと思っています。
取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=永田紫織 編集=中野 潤
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山谷花純(やまや・かすみ)
1996年12月26日生まれ。宮城県出身。オーディションを経て、ドラマ『CHANGE』(2008年/フジテレビ)で女優デビュー。2015年『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(テレビ朝日)に“モモニンジャー”役として出演。女優としてドラマ、映画への出演を重ね、主な作品は映画『劇場版コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』(2018年)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年/NHK)、ダブル主演を務めた『親友は悪女』(2023年/BSテレ東)など。2019年『フェイクプラスティックプラネット』で、マドリード国際映画祭2019「最優秀外国語映画主演女優賞」を受賞。現在、NHK連続テレビ小説『らんまん』に“宇佐美ゆう”役として出演中。