私の“幸せ”はどこにある?何もしたくない無気力な夜(橋下美好)

エッセイアンソロジー「Night Piece」

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エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。

 

宣材

 

橋下美好(はしした・みよし)
多数の広告に出演するモデル・インフルエンサー。同年代から支持され、SNSの総フォロワー数は100万人を超える。2021年、短編映画『純猥談』の主役に抜擢され、本格的に演技に挑戦。2022年はABEMA恋愛番組『恋愛ドラマな恋がしたい』への出演や、その他テレビ・イベント出演など活動の幅を広げている。アパレルブランド「sō4ū」やコスメブランド「haomii」のディレクターも務める。
HP:https://one-publishing.co.jp/model/miyoshi/
Instagram:https://www.instagram.com/miyoshikun/

「はぁ……」

私にだってため息ばかりの夜がある。
こういう日は基本何もしたくない。

この感情に特に理由はない。
なぜか急に心がしんどくなって、苦しいだけ。

定期的にやってくるこの感情に向き合うけど、解決策というものがいまだ見つからない。

まぁいつか見つかればいいなと思うが、だからといって何か行動するわけでもない。

何もやる気が起きないんだもん。

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食事も、冷蔵庫にあるカニカマでいい。

私の家の冷蔵庫にはカニカマがあって、こういう日のために3パックほど常備している。毎日同じものを食べたりするくらいには、一途である。

手軽に食べられてお腹も満たされるし、タンパク質も取れるし一石二鳥やね。いや、理由を見つければ三鳥にも四鳥にもなるね。

私も私である理由をたくさん見つけて、都合のいいように生きられたら、こんなふうに心がしんどくなることなんてないのだろうか。

「そもそもカニカマってなんなの。カニの味はせえへんし、カニも入ってへんやん」

ちょっと反抗的にこんなことを思う。

やる気のない夜は、静かで大人しいのに、気持ちは反抗的になる。

ほかの人がうらやましいなぁなんて思うし、インスタで見るキラキラした世界に落ち込んだりする。

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「生きづらいなぁ……」

ついボソッと言葉に出てしまった。

あぁ、息しづらいなぁ。
うまく呼吸ができてないのだろうか。

満足できる呼吸ができない。そんな感じ。

生息しやすい場所を求めるけど、探すのも作り出すのも、今はめんどくさいの。

吐く息が重たい。熱でもあるのかと意味もなく体温を測ったりしてみる。あるわけないのに。

笑ってしまうね。
こんなつまらん行動ができるなら、家事のひとつやふたつ、チャチャッと済ませばいいのに。

何もできない今の自分に、何かひとつでも同情される言い訳をしたかったんだと思う。

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恋人がいたときは、こういうことがなかった。

精神安定剤とでもいうように、元恋人は私をポジティブでいさせてくれた。

いつどんなときでも「かわいいよ」「大丈夫だよ」「味方だから」。

ありきたりなセリフではあるけれど、いつも一生懸命にまっすぐ伝えてくれた。

その元恋人との別れは、「お互い仕事をがんばるため」という理由だった。

こんな夜こそ、特に思い出してしまう。

今、その約束を果たせているのか。
あのときの別れが正解なのか、私を不安にさせる。

もちろん今この感情に陥っているだけで、ちゃんと元気な日には仕事をもりもりがんばっている。

君との約束は守れているよね。きっと。

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思い出したからといって、今になって泣いたりするわけでもないが、過去の自分が幸せに笑っている姿が、なぜか今の私をちょっぴり苦しめるのです。

今さら昔の話をしてもしょうがないけれど、今の私には、元恋人のような精神安定剤となる何かが欲しいのだ。

何もひとりでできない自分が情けなくなるのが嫌で、今日までずっと強がっている。

「美好ちゃんは強いね!」

なんて言われることが多いけど、強い自分でいないといつか本当に壊れてしまう気がするからであって、けっして強いわけではない。

いつもがんばってるねってヨシヨシされたいし、こんな夜にはそっと抱き締められたい。

だから私は、自分から抱き締められる抱き枕を買うまでに至った。

さすがに恥ずかしい。大人になってまで、かわいい犬の抱き枕を求めるなんて。欠かさず毎日抱き締めて寝ているけども。

そして私は、貪欲だ。

求めすぎるから、何気ない日常に満足できなくなってしまっているんだと思う。

今の私の虚無感は、当たり前の幸せを受けていて、それに気づこうともせず、さらなる幸せを求めているから生まれているものなんだと。

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あぁ、なんとなく答えが見つかった。

家族がいて、友人がいて、家があって、温かいご飯を食べて、温かいお風呂に浸かり、ふかふかの布団に包まれて寝る。

抱き枕だってある。
それだけでいいじゃないか。

夜はお気に入りの紅茶を飲んで、朝はカーテンと窓を全開にして、暖かい日差しに包まれながら、新しい空気を深く深く吸えばいい。

そして、昨日の夜を外に吐き出せばいい。

そのときこそ、ちゃんと息をしていると思う。

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こうして私はまた、今日の夜も悩んで、
きっと明日の朝、どうでもよくなっているんだ。

文・撮影=橋下美好 編集=高橋千里

エッセイアンソロジー「Night Piece」