じいちゃんとの思い出、酒が解いた夜(たけうちほのか)

エッセイアンソロジー「Night Piece」

lg_n_51_t_b

エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。

たけうちほのか 宣材

たけうちほのか
1997年4月6日、東京都町田市生まれ。モデルやインフルエンサーとして活動をスタートし、2023年4月に『ゴッドタン』(テレビ東京)のオーディション企画で優勝したことを機に、バラエティの才能が開花。お酒好きやサッカーフリークといった親しみやすい一面も持ち、飾らないキャラクターと物怖じしないぶっちゃけトークで大きな話題を呼ぶ。その後、『酒のツマミになる話』(フジテレビ)、『ダウンタウンDX』(日本テレビ)など数多くの人気番組にゲスト出演を重ね、マルチに活躍中。

 

忘れられない夜がある。
家族全員でウイスキーを飲んだ夜だ。

先月じいちゃんが死んだ。
町田にじいちゃんとばあちゃんが住んでいた。
子供のころは、団地で生まれて育った。
うちは1街区で、ばあちゃん家は7街区。
歩いて20分の距離だった。
私の家は親が共働きで忙しかった。
学校帰りは、ばあちゃん家に帰ってご飯を食べたりして
週末と夏休み、春休みはずっとばあちゃん家で過ごしてきた。

夏休みの定番といえば、
じいちゃんお手製の竹で作った流しそうめん 。
それをうっすいめんつゆにつけて食べたら
そのあとはつまらない宿題の時間だった。
内緒だけど、習字はじいちゃんが子供っぽく書いてくれたし、自由研究はじいちゃんが考えたのをひたすら写した。
じいちゃんが考える自由研究は、いつも学年で1位だった。

じいちゃんは無口で超頑固。
酒、たばこ、女が大好きな、まさに昭和の漢(おとこ)だ。

夜は、ばあちゃんが隠したサントリーのウイスキーのボトルとhi-liteのたばこを宝探しのように探した。
見つけたら、じいちゃんが貯めている500円玉をもらえた。

じいちゃんが仕事を辞めたとき、家でテレビを見てお酒を飲むことだけが趣味だった。
毎晩ウイスキーを1本空けた。
健康を心配したばあちゃんがウイスキーとたばこを隠すと、毎日怒鳴り散らかした。
じいちゃんをそんな人間にさせるウイスキーという飲み物を、子供の私は大っ嫌いだった。

たけうちほのか_夜写真①

そんなじいちゃんが、酒を飲まなくなった。
だんだんとじいちゃんらしい頑固な性格も柔らかくなって、
このころの好物は、たばことウイスキーではなく、あんぱんとコーラに変わっていった。
なんとなく、子供ながらに人の老いを感じていた。

そんなじいちゃんの口癖は“まじめにやってるかー?”
毎回ばあちゃん家に行くたびに私にそう言ってきた。

思春期が来たときには、あまりばあちゃん家に行かなくなった。
久々に行くと、じいちゃんは杖をついていた。
私がたまに泊まりに行ったときは、いつもは出てこない寝室から、
ものすごい時間をかけてリビングまで歩いてきて、笑いながら私の話を聞いてくれた。
私が毎回“今日のパンツの色見て〜!”とふざけて見せると、
“お前は一生結婚できないな”と笑いながら寝室に戻っていった。

何年かその調子で無口なじいちゃんは、元気だった。

あるとき、じいちゃんは施設に入った。
何回か面会に行ったけど、もうそのときには、私の名前も誰かも忘れていて少しボケ始めていた。
“この施設はかわいい女がいねぇ”とか(笑)。

ばあちゃんのことを“嫁”と呼び始めたり“嫁が大好きだ”とか“嫁が一番かわいい”とか、普段絶対じいちゃんが言わないようなことばっかり言っていた。

でも、会うたびに必ず“まじめにやってるかー?”と聞いてきた。
ちょっとは覚えてんのかよ(笑)と私は思った。

数年が経って、じいちゃんが病院に移ったと連絡が来た。
肺炎だった。

その2日後じいちゃんは死んだ。
その日じいちゃんに家族で会いに行った。
集まったとき全員が、じいちゃんの大好きなサントリーのウイスキーを片手に持ってきていた。

竹内家の約束は、葬式まで明るく。

じいちゃんが生前これを遺影に使ってくれよと言ってた、ばあちゃんの誕生日会をやったときの、じいちゃんが一番ふざけていた写真だった。
約束どおり持って行った。
全員がその写真で笑った。
葬式の次の日、奇跡的に全員の休みがそろって初めて家族全員で旅行に行った。
その夜、家族全員でウイスキーの水道水割りで乾杯した。
じいちゃんの飲み方だった。

じいちゃんのために全員が集まって、じいちゃんとの思い出話をつまみに、お酒を飲んだ。

気づけばグラスの中のウイスキーが何度も空になって、じいちゃんがそこにいるわけじゃないのに、あの夜はたしかに家族全員の真ん中にじいちゃんがいた。

無口で頑固で無愛想で家族の愛し方がわからないと言ってたじいちゃんが、一番家族をひとつにしてくれた夜だった。

そんな私が小さいころ大っ嫌いだった、ウイスキーを飲みながらこの文章を書いている。
じいちゃんが毎日飲んでいた意味が今はわかる。

たけうちほのか_夜写真②

酒は人をダメにするものだと思っていた。
じいちゃんを怒らせる原因だと思っていた。
でも今は少しだけ違う。
酒が偉いわけじゃないし、酒で全部解決するわけじゃない。
ただ楽しかった夜や寂しい夜、うまく言葉にならない気持ちをゆっくり引っ張り出してくれる夜がある。

今日のこの1杯もそうだ。
忘れたくない思い出を思い出させてくれる酒なら、少しくらい好きに飲んでもいいかもしれない。
私はこんな毎晩の1杯が大好きだ。

じいちゃん、私はまじめにやってるよ。
ありがと。乾杯。

文・写真=たけうちほのか 編集=宇田川佳奈枝

エッセイアンソロジー「Night Piece」