チキン南蛮弁当に別れを告げる、食べ尽くし食べすぎた私だけの夜(ぼる塾・あんり)

エッセイアンソロジー「Night Piece」

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エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。

 

ぼる塾・あんり'24.11(メイン)©400400

ぼる塾・あんり(ぼるじゅく・あんり)
1994年10月7日、東京都江戸川区生まれ。2014年、幼なじみのきりやはるかとお笑いコンビ「しんぼる」を結成、2019年に田辺智加と酒寄希望の先輩コンビ「猫塾」と合流してお笑いカルテット「ぼる塾」としての活動を開始。『女芸人No.1決定戦 THE W』2020・2023・2024で決勝進出。『ラヴィット!』(TBS)、『ぼる部屋』(九州朝日放送)、『イマドキッ』(MBSラジオ)などにレギュラー出演中。4月からメンバーの田辺智加とパーソナリティを務める『ぼる塾あんりと田辺の食べて喋って』(TBS Podcast)がスタート。

食べすぎた夜の次の日にもっと食べすぎた夜を過ごせば、昨日の夜の食べすぎは少しマシになる。
この考えを、私は【食べすぎのマトリョーシカ】と呼んでいこうと思う。

コンビニで買った夜ご飯、空の弁当箱やホットスナックが入っていた袋、その他もろもろ。
ゴミを入れたら、今日買った3円の袋はすぐにパンパンになった。
これを繰り返していくと、1週間も経たずに45リットルのゴミ袋もあっという間にパンパンになるのだ。
わかっている。
ひとり暮らしだから、誰のせいにもしない。
私がすべて食べた。
食い尽くした。
大人な私は、潔く食べすぎる。

今日の朝は、5時にマンションを出た。
見上げた空はまだ暗かった。
暗ければ朝ではなく、夜だ。
誰かが誰かにそう言って、もう少しだけ眠れたらいいのに。
そんなことを願いながら始まった1日。
夜まではまだ長い。

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仕事は嫌いじゃない。
仕事があることはありがたい。
でも、早く帰りたい。
夜が待ち遠しい。
今夜も誰かと会う予定は特にないけど。
早朝からがんばった自分へのごほうびを存分に与えることができるのは、私だけだ。
今夜私は、昨日の私より食べすぎる。

帰りのタクシー、スマホの画面を見なくても指がデリバリーアプリの位置を覚えている。
そのまま慣れた手つきでお店一覧をスクロール。
デリバリーアプリの配達時間と地図アプリで自宅までの到着時間を比較しながら、今夜食べすぎるものを決めていく。

しかし、ダメだ。
今日は決まらない。
お腹が空きすぎて、わずか10分の配達時間でさえ待てそうにない。

よし、こうなったら、今夜はコンビニの商品で宴だ。
夜の暗闇で光る24時間営業の楽園で暴れてやろうじゃないか。

お弁当のコーナーに行く道中で、レジ前のホットスナックが充実していることを確認した。
この効率のよさをほかのことにも使えたら、もっと立派な大人になれるかも。
まあ、それは少し先の未来の私に期待しよう。
今は、宴の準備に集中。

このコンビニでよく買うチキン南蛮のお弁当と目が合った。
「おかえり」と言われた気がした。
自然と手が伸びた。
だけど、チキン南蛮弁当に触れる直前に止めた。
今日はもっと非日常を楽しみたい。
チキン南蛮弁当、今日はごめんね、また明日ね。
返事はもちろんなかった。

さて、どうしようか。

静かに悩む私の近くに、大学生くらいの男性3人が楽しそうに笑いながらやってきた。
彼らのカゴの中には、すでにお酒やお菓子がたくさん入っている。
これから誰かの家で宅飲みでもするのだろう。
ピザポテト、じゃがりこサラダ味、柿の種、しみチョココーン。
カゴの中のお菓子のラインナップで、特別な記念日や特別な理由があるような宅飲みではないとわかる。
目的も理由も曖昧な、ただなんとなく集まってする宅飲み。
これがどんなに楽しいか、私は知っている。
パーティー開けにしたピザポテトのパッケージがお皿になって、そこにほかのお菓子も盛り合わせていくのだろう。
明日の朝、柿の種は少し余り、家主のものになる。

知らない大学生たちの宅飲みを想像して、なんだか私まで楽しくなる。
私がそんな宅飲みをしていたのは、20歳から23歳くらいのとき。
芸人になって、1年目から3年目。
バイトやライブ、オーディションが終わったあとに、終電で同期の家に集まって、始発まで宅飲みをするのが習慣になっていた。

夜が深くなるほど、会話の内容も濃くなっていく。
売れたらどんな番組に出たいか、どんな芸人でありたいか、同期とそんなことを語っていると、なんだかもう叶っているかのような満足感があった。
今語り合っている夢がこれ以上遠ざからないように、同期との差が、結果ではなく努力から生まれないように、がんばらなければ。
同期との宅飲みは、楽しみながらも自分を焦らせる時間にもなった。

正直にいうと、本当にただ集まって、お菓子を食べて、朝には覚えていないようなしょうもない話をして、始発に帰るだけの無意味な宅飲みのほうが数でいえば多い。
でも、だからこそ、少しだけまともに語り明かすことができた夜を昨日のことのように覚えていたりする。

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隣にいる大学生たちにまた視線を戻す。
彼らは今夜、何を語り合うのだろう。

「俺、弁当いっちゃおうかな!!」

私がさっき「また明日ね」と別れたチキン南蛮弁当を大学生のひとりが手に取る。
「今メシ食ってきたばっかだろ!」とか「食欲バカすぎ!」とか笑う友達に、うれしそうな表情をしている。

サービス精神が旺盛なチキン南蛮弁当の青年よ。
私が人生の先輩として予言しよう。
今日、君は宅飲みで一番先に寝ることになる。

青年にあのころの自分を重ねて、気づいたら私は弁当売り場からお菓子売り場に移動していた。

ピザポテトに「久しぶり」と声をかけられた気がする。
あのころみんなで分け合っていたものは、今日はひとりでたいらげる。
いや、あのころもほとんどひとりでたいらげていたかもしれない。

ピザポテトが入ったカゴにさっき別れたチキン南蛮弁当も追加した。
私に非日常はまだ早い。
日常の中で暴れよう。
今日の宴のテーマは“あのころの自分と今の自分の宅飲み”。

コーラとシュークリームもカゴに入れて、レジでアメリカンドッグと骨なしチキンも頼む。

3円で買った袋にパンパンに詰まった宅飲みの材料たち。
今夜私を楽しませてくれる、最高の演者たち。

なんだか大学生3人のカゴに入っていたものより多い気がするが気にしない。
今夜の宅飲みルールは、罪悪感を抱かないこと。
最高の夜にするんだ、遠慮なくはしゃごう。

その夜の私の食欲は、あのころと変わっていなかった。
宣言どおり、楽しくて仕方がない最高の夜を過ごし、満足して満腹で眠った。

あのころと変わらない自分、あのころから少し変われた自分、どちらも好きだと自覚する夜。
私はきっと、この夜をまた過ごしたくなるだろう。
大切にしたい私だけの夜。

朝に来るであろう胃もたれは、朝の私に任せてしまおう。

文・写真=ぼる塾・あんり 編集=宇田川佳奈枝

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