夜行性の私、無縁の朝活にたどり着いた夜(寺本莉緒)

エッセイアンソロジー「Night Piece」

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エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。ここを編集

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寺本莉緒(てらもと・りお)
2001年生まれ、広島県出身。主な出演作に、映画『別に、友達とかじゃない』、配信ドラマ『サンクチュアリ -聖域-』、ドラマ『サブスク彼女』(朝日放送)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ)。『RoOT / ルート』(テレビ東京)、『新宿野戦病院』(フジテレビ)、NHK連続テレビ小説『おむすび』、CM『アリエールMiRAi』。2025年10月にニッポン放送プロデュース舞台『いつかアイツに会いに行く』に出演決定。趣味は野球観戦、特技はダンス、ピアノ、英語。
X:@teramoto_rio
Instagram:@ rio_teramoto

忘れられない一夜。

私は夜が好き。いわゆる夜行性。
昼よりもなぜか夜のほうが活動的になる。
朝活が流行ったときも私はそんなことできたこともないし、やろうと思ったこともない。なんなら、11時ぐらいから行動できてしまった日には、今日は朝活をしたんだと自分のSNSで自慢するくらいだ。
昼過ぎまでぼんやり過ごし、夕方から少しずつエンジンがかかる。19時になると予定をずらそうかと考え始め(時にはドタキャンも)、20時でやっとギアが入る。そして22時、元気は100%に到達。

夜3

ただ、ここでひとつ問題点がある。夜から行ける場所、やれることが限られてくることだ。だから私の行動パターンは決まって同じ。おなじみの友達に連絡、集まれる人たちで行ける場所へ行く。決まったパターンだけど、限られた範囲の中で行動するほうが自分には向いている。選択肢が多ければ多いほど優柔不断の私は何もできなくなってしまうのだ。こんな私を理解してくれるわずかな友達は、本当にかけがえのないものだ。

そして──2023年11月4日。
22歳の誕生日前夜。
広島県出身の私はいまだに広島の友達が多い。なので2カ月に1回くらいは広島に行ったり、広島から友達が東京を訪ねてくれたりする。この日は、その中のひとりが東京まで会いに来てくれる日だった。しかも誕生日に合わせて。こんなありがたいことはないし、私も気分が上がっていた。

だけどこれが決定したのは当日の17:00。今日は朝からドラマの撮影が入っていて、そのあと2件の前夜祭。友達に会えるのはそのあとだ。何時に帰宅できるかなんてわからない。彼女はサプライズ的なことを企てようとしてたみたいだが、私の予定の詰め込み具合を察し、事前に連絡してきた。正直、うれしさと同時にパニックもあった。

夜4

彼女は自由人。
きっとうまくはいかないと思っていた。予想的中。彼女から事前に予定していた新幹線に乗れないかもしれないと、緊急LINE。私は性格的に予定どおりに動けないとかなりイライラしてしまう。その時点でそんな無理して来なくてもいいんじゃないかな?と不信感を抱き始めたころ──「ギリ間に合った!」
ラッキーガールな彼女はガンダッシュで新幹線に乗り込んだらしい。

到着は23時過ぎ。もう彼女のことを考えるのはやめて、私は前夜祭を全力で楽しむことにした。

彼女から「品川から最寄りまで歩くね」とLINEが来たのは、私がすでにベロベロだったころだ。彼女が知らない土地を歩くのが好きなのは知っていたが、まさか深夜に、女の子ひとりでするとは思ってもいなかった。終電はとうにない。タクシーを使う気もなさそう。危なっかしいが、私もその場を離れられない。
彼女から届く東京観光レポートのLINEをないがしろにしながらも、私はようやく帰宅のタイミングを迎えた。

──しかしここで事件が起きる。
「今どこ?」と送った直後、不在着信。そして既読がつかない。
バカみたいに大量のスタンプを連打しても反応はゼロ。彼女と連絡が取れなくなったのだ。

誕生日当日。瞬間的に酔いが覚めた。
お祝いしてもらって最高に気持ちのよい気分から頭の中で最悪のシナリオがふくらむ。
私のせいだ。何があったのかまったく想像ができない。とりあえず自宅の住所を伝えていたので帰宅するが、いるはずもない。家のあたりを探してもいない。共通の知り合いに連絡するが、誰も彼女と会話をしていない。最悪の事態だ。時刻はすでに3:30。

そのとき──思い出した。昔、位置情報アプリを交換していたことを。
久しぶりにアプリを開く。共通の知り合いのお店にピンが刺さっている。「ここだ!」即タクシーを呼び、スマホ画面と道路を交互に睨む。タクシーの中で位置情報が動かないか確認しながら、目的地に到着。だがしかし、お店は真っ暗。パニックになりながらあたりを探すが影も形もない。あらゆる手段は使った。だけど見つからない。携帯の充電はじゅうぶんにあるし(アプリで確認できる)さすがに生きているはずだ。そう思っても焦燥は収まらず、タクシーで来た道を引き返した。

絶望感とともに、こんな時間まで放置してしまった自分を責めた。自分のために東京まで来てくれる友人をどうして優先できなかったのだろう。

夜2

そして──病院の前を通ったときだった。
街灯の下、歩道に人影。
目を凝らすと、それは彼女だった。

意味がわからない。なぜこんな場所で。
走って駆け寄ると、彼女は地面に倒れたまま爆睡していた。呼吸は正常。生きている。

とにかく見つかってよかったと安心している私と、安心したからだろうか湧いてくる怒りの感情が交錯した。たどり着いた答えは、とびっきりの蹴りの一発。
気づけば彼女の脇腹に軽く蹴りを入れていた。

その瞬間、彼女はゆっくりと目を開け、こう言った。

「お誕生日おめでとう」

……ふざけている。と同時に笑いが込み上げてきた。
開口一番でそれを言える彼女のセンス。
大好きだ。
そしてここまで私がたどり着くまでの苦労を知ろうともしない無頓着さもなぜか嫌いになれない。

夜1

荷物もスマホも無事。彼女も無事。ここが日本で本当によかった。

彼女が過ごした数時間は、私の知らない時間だった。私の視点では考えられない場所を歩き、私が想像もつかない景色を見ていたのだろう。自由奔放すぎるその時間の使い方が、なぜか私は好きだ。

帰り道のタクシー、私にもたれかかって眠る彼女を見ながら思う。きっとこれからも振り回される。でも、悪くない。むしろ望むところだ。
22歳を迎えた私は、彼女みたいに自由に生きてみたいと思った。

街はすでに薄明るく、時計を見ると5:30。
私は思わず笑ってしまった。

夜5

──朝活じゃん。
誰よりも苦手で、誰よりも避けてきたあの“朝活”を、私は今こうして達成している。
しかもただの朝活じゃない。夜通しの笑いと焦りとハプニングの果てにたどり着いた、私たちなりの朝活だ。

世間が想像する朝活とは違うだろう。
でも──これでいい。

文・写真=寺本莉緒 編集=宇田川佳奈枝

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