「メイドでいても、家庭にいても、変わらない自分で楽しむ」志賀瞳のサボり方

サボリスト〜あの人のサボり方〜

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クリエイターの活動とともに「サボり」にも焦点を当て、あの人はサボっているのか/いないのか、サボりは息抜きか/逃避か、などと掘り下げていくインタビュー連載「サボリスト~あの人のサボり方~」

メイドカフェ「あっとほぉーむカフェ」のカリスマメイド「hitomi」として活躍し、運営会社のCBOも務める志賀瞳さん。結婚・出産を経た現在も現役のメイドとして活動を続け、メイド文化の発展に尽力する志賀さんの仕事への向き合い方と、ひと息つく瞬間について聞いた。

志賀 瞳 しが・ひとみ
2004年、「あっとほぉーむカフェ」にてメイドとして働き始める。2005年にはメイドルユニット「完全メイド宣言」としてデビューし、「萌え〜」で新語・流行語大賞トップテンを受賞。2018年よりあっとほぉーむカフェの運営会社であるインフィニア株式会社のCBO(チーフブランディングオフィサー)を務める。また、2017年より秋葉原観光親善大使を務め、2019年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演するなど、現役でメイドを続けながら、広くメイド文化の発信に努めている。

テーマパークのキャラクターのようにメイドに徹する

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──メイドカフェにおけるメイドさんのお仕事について、ぼんやりとしたイメージはあるのですが、実際どんなことをされているのでしょうか。

志賀 「あっとほぉーむカフェ」では、お客様のことを「ご主人様/お嬢様」とお呼びしていて、「お屋敷」と呼んでいる店内で、ご主人様・お嬢様にお給仕(接客)するのがメイドのお仕事です。

「お帰りなさいませ、ご主人様」とお出迎えするだけでなく、メニュー名やその説明でもメイドらしいかわいらしさや「萌え」を大切にしていて、お客様に世界観を楽しんでいただけるようにしています。もうひとつポイントとして、お食事を提供する際に「萌え萌えキュン」と愛を込める「愛込め」がありますが、これはあっとほぉーむカフェ発祥なんです。

──お店には女性もたくさん来ていて驚きました。

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志賀 そうなんですよ。最近は男女比も半々くらいで、年齢層も幅広くて。よく「男の人が楽しむお店」みたいな偏見を持たれがちなんですけど、メイドのお給仕は基本的にカウンター越しなのでご主人様の隣に座ることもないですし、指名制とかでもなくて、あっとほぉーむカフェはあくまでメイドとのトークや世界観を楽しんでいただく場所なんです。お話しする内容も「メイドカフェだからこの話をしなきゃいけない」とかはなくて、お嬢様には恋バナを聞かせてもらったり、恋愛相談を受けることもありますね。

──志賀さんがメイドとして大切にされていることはなんですか?

志賀 私が自分で作った言葉なんですけど、「ハートにもメイド服」を心がけています。見た目だけでなく心の中でもメイド服を着た感覚を持って、芯の部分からメイドになる必要があると思っているんです。そうすることで、お給仕中の発言や所作、立ち居振る舞いなどにメイドらしさが出てくるんじゃないかなって。そこはすごく大切にしています。

──そういったメイドとしてのプロ意識を持つ上で、参考にした人などはいるのでしょうか。

志賀 私はディズニーがすごく好きで、家が近かったのでディズニーランドに行く機会も多かったんですけど、ミッキー(マウス)に感じてきた憧れは、メイドにとっても大切なものだと思っています。いつ会ってもミッキーはミッキーで、誰にでも平等でみんなに手を振ってくれる。「ハートにもメイド服」にも通じますが、メイド服を着ているときは常にミッキーの心を忘れないというか、「メイド」というキャラクターであり続けるという意識は、ディズニーから学ばせてもらったのかなと思います。

メイドという職業は、人生を懸ける価値がある

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──学生時代から20年以上メイドを続けられていますが、そのモチベーションにつながっている経験などはありますか。

志賀 大きなターニングポイントとして、これは書籍などでもお話ししているのですが、2008年に秋葉原で起きた無差別殺傷事件があります。あの事件をきっかけに秋葉原が暗いムードに変わってしまい、事件を目撃したことで秋葉原に来られなくなったご主人様もいました。私もメイドへの偏見を覆したい一心で働いてきた心がちょっとくじけそうになってしまったんですけど、明るい秋葉原が戻ってくるまでこの場所を守り続けることが大事だと思い、お給仕を続けていました。

そうしたら事件から2年経ったころに、ずっと見かけなかったご主人様がご帰宅してくれたんです。やっぱり事件のことがトラウマになっていたそうなんですが、SNSで私の活動を見て、「hitomiちゃんがこんなにがんばってるんだったら、また行ってみようと思ったんだ」と言ってくださって。たとえ目の前でお話しできなくても、自分がメイドとして活動を続けることで誰かの人生を後押ししたり、癒やしになったりすることもあるんですよね。そのことに気がついて、「やっぱりメイドってすごいな。これから先も人生を懸けてこの仕事をやる価値がある」と思えた経験は大きかったです。

──それは大きな経験ですね。ちなみに、もっとささやかなレベルで力をもらえるような言葉や経験としてはどんなものがありますか。

志賀 ささやかレベルでいうと、こちらの言動に対して、ご主人様・お嬢様の反応がすぐに返ってくるところがモチベーションになっています。いい反応も悪い反応も、一瞬でわかるんですよ。だからこそ、反応が悪くてもすぐにリベンジするチャンスがもらえると思っていて、目の前で反応を見ながらやりとりできることにやりがいを感じるんです。

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──相手の反応を見ながらその場で対応を考えていくって、引き出しやアドリブ力なんかがないとできませんよね。プロのスキルだと思います。

志賀 たしかに、引き出しは大事ですね。後輩のメイドからよく「ご主人様と何を話していいかわからない」といった相談を受けるんですけど、できるだけ自分の中に引き出しを作っておいた上で、会話のラリーを意識してもらうようにしています。そうじゃないと、誰に対しても同じような質問のQ&Aになってしまって、楽しくならないんですよ。

あとは、お話そのものを目的にするんじゃなくて、ご主人様・お嬢様に興味を持つことが大切です。相手に興味を持っていることが伝われば、お互いに高い熱量でお話しできるんです。そうやって話を掘り進めていれば、共通点や盛り上がる話題もきっと見つかると思います。これを私は勝手に「ホリホリの技術」って呼んでるんですけど(笑)。

──そういった経験の積み重ねで、観察力なども鍛えられているんでしょうね。

志賀 視覚から入る情報には注目していますね。お顔の様子はもちろん、服装や持っているバッグの大きさ、キーホルダーやスマホケースまで、いろんなところを観察して、会話のネタにしています。観察するクセがついているので、ご主人様がご帰宅されたとき、一瞬で「あ、もしかしてこういうものを求めてるのかな」と想像できてしまうときもあって。なんか怖いですね(笑)。

メイドの先生のコツは、自分で答えに気づいてもらうこと

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──運営会社のCBO(チーフブランディングオフィサー)としては、どんなお仕事をされているのでしょうか。

志賀 あっとほぉーむカフェの新サービスや新メニューについて意見をしたりもしますが、メイドについて世間に発信したり、メイド向けに「メイドとは」というお話をしたり、メイドの世界観に携わるケースが多いですね。そして、もっとメイドという文化の認知を広げ、偏見をなくしていくために、あっとほぉーむカフェが安全安心で健全なお店だということのアピールにも力を入れています。

──メイドとして働くこととは、また違ったやりがいがありそうです。

志賀 そうですね。メイドは自分が一プレイヤーとしてご主人様・お嬢様と対峙する存在なんですけど、CBOの場合は、1対1というより、世の中に訴えかけたり、メイド全員に向けて活動したりする。そういった意味で、やりがいの規模感も大きいなと思います。同時に、しっかりと向き合い、本気で臨まないと、ちょっとした言動でメイドそのもののイメージを壊してしまう恐れもあるので、責任感みたいなものも増しましたね。

──メイドさんとも向き合っているそうですが、いわゆる上司と部下みたいな、お客さんとはまた違ったコミュニケーションが生じますよね。志賀さんはメイドさんたちとどう接しているのでしょうか。

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志賀 面談や相談に来るメイドたちは、みんな話したいことがあるわけじゃないですか。問題を解決するよりも、まずは「私の意見をわかってほしい」「共感してほしい」という子が多いんですよ。だから、メイドが相談に来たときは話を途中で止めないようにしています。途中で「ん?」と思うことがあっても口を挟まず、最後まで話を聞いて、思う存分吐き出してもらうんです。

そして、「それはイヤだったね」「大変だったね」と共感して、すべて受け入れます。落ち着いてきたら、「私はそういうときこうしたよ」とか「こういうご主人様もいたよ」と、自分の経験を話します。私のほうから答えを出したり、決めつけたりしないように意識していますね。自分で答えに気づけたほうが納得できるし、行動できると思うんです。

──すごい、先生みたいですね。問題の答えじゃなくて解き方・考え方を教えるみたいな。

志賀 たしかに、メイドの先生かもしれないです(笑)。

──ずっとあっとほぉーむカフェで働くメイドさんたちを見てきたなかで、変化を感じることはありますか?

志賀 変わりましたね。私はもともとギャルだったんですけど、入ったころはメイドもオタクな子ばっかりで、スーパー異端児でした。でも今はギャルっぽかった子や陽気な子、元アイドル、大学院生など、本当にいろんな子がいます。

それに、あっとほぉーむカフェのメイドになりたくて地方から出てくる子もとっても多いんですよ。それこそ海外から来る子もいますし、メイドが憧れの職業になってきているのかもしれないな、って思えるようになりました。

──メイドが憧れの職業になるなんて、メイド文化の発展に貢献してきた志賀さんにはうれしいことですよね。

志賀 そうですね。以前は「秋葉原でメイドなんて大丈夫?」と親が心配して、メイドになることを許してもらえなかった子も多かったと思うので、イメージも変わってきていると思います。そういった理解がもっと広まっていくといいですね。

どこにいても、ムリなく自分らしく

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──志賀さんは結婚してお子さんがいることも公表されていますが、メイドをしながら会社の運営に携わり、さらに家庭もあるとなると、サボるヒマなんかないですよね。

志賀 自分の中ではサボってるというか、息抜きはしっかりしていると思ってます。プライベートの志賀瞳として子育てをしているときは、もちろん大変なこともあるんですけど、同時に息抜きにもなってるんです。最近は子供がASMRにハマっているので、一緒にTikTokを見たり、トレンドの食べ物を買ってASMRごっこをしたりするんですけど、そういう時間がサボりの時間、癒やしになっています。

──ただお子さんの相手をしているのではなくて、自分もちゃんと楽しんでいるから、リフレッシュになる。

志賀 そうなんです。趣味や好きなものも似ています。それと、私がメイドであることもすごく喜んでくれていて。子供は男の子ふたりなんですけど、4歳の次男は「将来ママ(メイド)になりたい」と言っています。家でもメイドごっこをするのが好きで、一緒にオムライスにケチャップで絵を描いたりして楽しんでいます。

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──それはうれしいですね。お子さんとの時間以外に楽しんでいることはありますか?

志賀 スマホのゲームとかもやりますよ。メイド同士で一緒にやったりもします。みんなでずっとやってるのは、『トゥーンブラスト』っていうパズルゲームです。よく広告で出てくるやつなんですけど。

──実際にあるのかどうかわからないようなゲームですよね? 本当にあったんだ。

志賀 はい、3年くらいずっとハマってますね。チームで得点が出たりするので、仲のいいメイドたちとグループを組んでいて、「最近、ミッションやってないじゃん。ちゃんとやろうよ」ってLINEしたり(笑)。

あと、YouTubeなんかもよく見るんですけど、家だとずっと流しっぱなしにしているような感じで。生活音というか、いろんな音が聞こえてる状況が好きなんです。だから、ぼーっとするにしても、家にいるよりは人が集まるファミレスとかのほうがいい。仕事で何か作業をしなきゃいけないときも、無音よりはYouTubeを流したり、外でやったりしたほうが集中できますね。

──そういったぼーっとしている時間が意外とお仕事のインスピレーションにつながった、みたいな経験はありますか?

志賀 やっぱりファミレスとかにいると、自然と女子高生の会話が耳に入ってきたりするので、今の若い子がどんなことをしているのか聞きながら「こういうグッズがあったらいいかも」って考えることはありますね。

あと、子供といる時間も同じで。あっとほぉーむカフェにはお子さんもたくさんご帰宅してくれるんですけど、場違いだと感じてほしくないし、楽しんでほしい。そういうときに、子供たちのトレンドとか、マクドナルドのハッピーセットの最新情報とか、普段子供としゃべっている内容を話すと、すごく喜んでくれるんです。だから、意外と自分がダラけたり、ただ楽しんだりしている時間も、お仕事に役立っているのかもしれないですね。

──結局、すべての時間を上手に楽しまれているような気がします。

志賀 会社の人にもよく言われますね。メイドでいるときも、会社にいるときも、家にいるときも、そんなに差がないんですよ。どっちかで自分を作っていたり、意識してがんばったりしているわけじゃなくて。

──どこにいても自分らしくいられるのが一番いいですよね。

志賀 そう思います。本当にムリしてないんで。家でも職場と同じテンションで話してると、子供もすごく楽しんでくれるんですよね。

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撮影=石垣星児 編集・文=後藤亮平

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