定期的に見る夢がある、「何も変わらない」と罪悪感を抱えた夜(二瓶有加)

エッセイアンソロジー「Night Piece」

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エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。

宣材写真

二瓶有加(にへい・ゆうか)
1995年10月20日生まれ、東京都三鷹市出身。2016年にダンス&ボーカルグループ「PINK CRES.」のメンバーとしてデビューし、2021年まで活動。2022年にYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』の出演をきっかけにブレイク、現在は女優・タレントとして活躍中。2025年7月10日(木)〜7月16日(水)は、草月ホールにてミュージカル版『武士の献立』に出演。2025年8⽉より東京建物 Brillia HALLを⽪切りに、⼤阪、京都、愛知、熊本など全国5カ所にて上演される、舞台『ぼくらの七⽇間戦争2025』に出演。
Instagram:@niheiyuka.official
X:@niheiyuka1020
YouTubeチャンネル『二瓶有加ch』:@niheiyuka1020

定期的に見る夢がある。
自分の心のしこりとなっていることの夢。
夢の終わりはいつも同じで、その問題がおとぎ話のようにハッピーエンドを迎え、そこで目が覚める。

あぁ……現実はまだ何も変わってないんだ。

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この日は、夕方には仕事が終わり、帰宅後すぐに昼寝をしてしまっていた。
少し寝るつもりだったのが、気がつけば24時前。
最近はダラダラと続く雨が降っていて、室内に干した洗濯物の影響で、部屋全体がじめっとしている。こんな時間まで寝てしまった……やることを何もやれていない、という軽い罪悪感を抱える。
まぁまぁ嫌な目覚めだった。

あのときと今とでは、自分を取り巻く環境がだいぶ変わった。
自分の部屋を借りて、自分の好きなものに囲まれて、広くはないけど、狭すぎない。ひとりで住むにはじゅうぶんな快適さがある1Kの部屋で、ひとり暮らしをしている。

あのとき、私は自分が手にしたい夢を追うことに精いっぱいで、いつかその夢を叶えて、好きな部屋をひとりで借りて、好きなものに囲まれて生活をすることが目標だった。

今現在、やっとひとり暮らしが始められたというのに、ひとりベッドの上でぼーっとしている自分を客観的に見つめると、なんだか妙に切なくて、寂しさに押しつぶされそうになる。

あのとき、私は25歳だった。
20歳から25歳までアイドルとして駆け抜けた。
私はいわゆる、「人気メンバー」ではなかったけど、好きな歌とダンスを踊って、ステージに立つと目の前でファンの方が応援してくれる。そんな充実感で、なんだかんだとても幸せだった。

しかし、24歳の誕生日を迎えた瞬間、急な不安が自分を襲った。

「来年、私25歳なんだ……。20代半ばに突入する。
25歳を迎えたとき、きっと過ぎる時間の速さをもっと実感して、きっと、もっと焦ってしまうだろう。
若さって永遠じゃないんだ……」

20代、若さを武器に仕事をしていた私は、
若さがなくなることへの不安感を初めて覚えた。

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そんななか、世間はコロナ禍に突入。
仕事はもちろん全部ストップ。ライブも、ファンの方との握手会も、全部なくなった。

ステージで歌って踊っていた自分の日常が、急に奪われた。そんな気持ち。

毎日実家のベッドで死んだように寝て、起きるだけ。
もうすぐ25歳だというのに、ひとり暮らしをする経済力もなければ、いつまでもこの家の末っ子として、出されたご飯を食べて、家の手伝いもせずに寝る。
家事もろくにできない。
なんなら母の手料理にケチもつける。
最低な甘ったれ。

誰かが用意してくれたステージがなければ、
自分は何もできない、ただの情けない大人だということに気がついた。
悔しかった。情けなかった。

そして、このままじゃいけないという焦燥感に襲われた。

だめだ、動かなきゃ。やらなきゃ。
思い描いてた理想の大人になりたい!
そんな想いが自分を突き動かした。

そこから流れるように解散が決まり、
無観客で解散ライブ。

アイドルである夢の時間が終わったのか、終わってないのか、
曖昧な気持ちを抱えたまま、
ソロとしての活動が始まった。

そのあとは転がっていくように、
日々求められることに応えるのに必死で、
とにかく毎日もがいていたら、29歳になっていた。
気がついたら、ひとり暮らしをしていて、
気がついたら、あと数カ月で30歳になろうとしている。

Unknown

あのとき思い描いてた
【理想の大人】に私はなれているのだろうか……。

初めて焦りを覚えた24歳の夜を一緒にお祝いしてくれたのは、10代からずっと一緒だった親友ふたり。気がつけばふたりは結婚をして、今は子育て真っ最中。
3人で誕生日会を開くことも、もうここ数年していない。

みんな前に進んでる。
私、側から見れば進んでるのかもしれないけど、
今日も自分の心のしこりとなっていることの夢を見て起きて、同じことで落ち込んでる。
自分だけ取り残された、そんな気持ちがただただズンと心を重くする。

そんななか、なんとなく、自分のグループ時代の映像が観たくなってYouTubeを開いた。
自分が思ってたより、幼い自分がそこには映っていた。
今の私から、当時の自分やグループを客観的に見たとき、当時は思わなかった感情があふれてきた。

ここからは自画自賛になるが、

「このとき、ここの歌がうまく歌えないって思ってたけど、全然上手に歌えてたじゃん!」

「人気ないしなぁ……なんて自信なかったけど、こんなにお客さん笑顔でいてくれてたじゃん」

「太ってるから恥ずかしい……なんて思ってたけどお肌ピチピチで、若さあふれててかわいかったじゃん!」

「てか、曲もダンスも最高! このグループ最高だったじゃん!」

ふと、思った。
当時の自分が、今の自分のように、
自分で自分を認めてあげられてたらよかった。

それと同時に、今の自分に足りないのは、
【自分で自分を認めてあげられない力】
だと思った。

「振り返れば、自分はちゃんとやってきた。
あのときの自分より、ちゃんと今の自分は成長してる。私、大丈夫。よくがんばってる」

自分にそう言い聞かせるだけで、
強くなれた気がした。

さっきまで、罪悪感を抱えたこの夜の時間が、
捉え方次第で、自分自身を癒やす、いい夜に変わった。

いつか、今の私も過去になる。

過去になってから、
「あのときはがんばってたなぁ」と過去の自分を認めるのではなく、
今の私を今、認めてあげよう。

そんなふうに思った。

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文・写真=二瓶有加 編集=宇田川佳奈枝

エッセイアンソロジー「Night Piece」