名MC・古家正亨に直撃!K-POPスターの魅力を引き出すコツは?|「林美桜のK-POP沼ガール」マレジュセヨ編
「林 美桜のK-POP沼ガール」
K-POPガチオタク・林美桜テレビ朝日アナウンサーの沼落ちコラム
連載「林美桜のK-POP沼ガール」新シリーズが始動!
その名も「林美桜のK-POP沼ガール・マレジュセヨ編」。マレジュセヨとは、日本語で「話してください」という意味。林美桜が話を聞きたい“韓国カルチャー仕事人”に突撃取材し、仕事流儀から細かいノウハウ、アドバイスまで、たっぷりと語っていただきます。
マレジュセヨ編の第1回は、多数のK-POP関連ライブやイベントで司会を務める名MC・古家正亨(ふるや・まさゆき)さんが登場。
林とはテレビ朝日公式YouTubeチャンネル『動画、はじめてみました』内の「動はじK-POP部」で共演。同業者・共演者として、古家さんに教えを乞いたいことがたくさんあるようで……?
司会業の悩み「出演者の下調べ、どこまでやるべき?」
林 美桜(以下、林) 今日は、古家さんにお聞きしたいことをぶつけさせていただきます! 古家さんのことは高校時代から韓国カルチャーを深掘りするテレビ番組などでよく拝見していて。当時はその番組を観ることが日々の唯一の楽しみだったんです。大学時代にK-POPについて書いた卒論でも、古家さんの著書を参考にさせていただいて。
なので初めて共演させていただいたときは、うれしくて泣いたんですよ。それくらい、私にとっては尊敬する特別な存在で……。いきなり長くしゃべってしまいました(笑)。今回は、半分、アナウンサーとしての「お悩み相談」になってしまうかもしれませんが……いろいろ伺っていきたいと思います。よろしくお願いいたします!
古家正亨(以下、古家) そんなことを思ってくれていたなんて……ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします!
林 まずは、年間ものすごい数のイベントのMCを務められている古家さんですが、きっとトラブルなんかも少なくないんじゃないかなと思うんです。アナウンサーも、たとえば「番組がもうすぐなのに、台本到着が遅れている!」というピンチがあったり……私自身は、すごく焦っちゃうタイプで。古家さんも、そういうときにストレスを感じたりしますか?
古家 トラブル、よくありますね。僕はけっして焦らないほうなんだけど、つらいなぁって思う瞬間はもちろんあります。たとえば俳優さんのイベントで、出演作をすべて観て完璧に準備しておいたのに、一度もイベントでその話題が上がらなかったときとか(笑)。「あんなに観たのになあ」って、ちょっと悔しくなっちゃうかな。
林 古家さんとは番組でも共演させていただいていますが、台本にアーティストの性格や個性、ハマり事などパーソナルな情報や、ほかにもびっしり書かれていて、お忙しいなか全部調べているんだなと感激したんです。さらに、それを本番が始まるギリギリまで書き込まれていたのが印象的で……。
ただ、リサーチはとても大切だけど、本当に難しいなと最近思っていて。私は音楽バラエティ番組『M:ZINE(エンジン)』で、出演アーティストの作品やパーソナリティをなるべく調べてから収録に臨んでいるのですが、とにかくコンテンツが膨大だからどこまで調べてよいものか悩んでいます。
古家 僕の場合、MVやオフィシャルで出ている映像モノなど、あくまでベーシックなものだけです。とはいえ、ドラマやオーディション番組の場合は一作品にすごい視聴時間を費やすことになるぶん、大変ですよね。
でも、仕草やセリフなど、細かいところを拾っておくと、現場で出演者の方がすごく喜んでくださるし、ファンのみなさんも盛り上がってくださるから、できるだけ記憶するようにしていますね。
林 なるほど! リサーチの段階で、使えそうなものをある程度ピンポイントで予測しておくんですね。
古家 あとは、SNSでファンの方が「こういうことを聞いてくれたらうれしいな」というポストをしていたら、それをメモしておく。いろいろリサーチしたとしても、ステージで自分の知識をひけらかすだけだと意味がないんです。だって、そんなことはファンのみなさんが一番ご存じだから。重要なのは、ファンの方が知りたいことを、スター本人の言葉で引き出すことだと思うんです。
林 わー……。私は「勉強したから、言いたい!」が勝っちゃうんですよ。
古家 それは、不特定多数の方が観るテレビと、ファンだけが来るイベントという性質の差もあるので、テレビでやるならある意味、林さんのやり方が合っていると思いますよ。テレビの場合は、アーティストや作品の情報が初見という方も想定して発信することが必要だから。
ただ、これは僕自身が先輩からよく言われていたことなのですが、知ったかぶりはしないほうがいいです。さらに掘り下げられて答えられなかったときに、信頼できない人として見られてしまうから。それより、むしろ知らないことは「それってどういうことなんですか?」と相手に聞ける姿勢を持つほうが、一般の方と同じ視点に立てるのでいいと思うんですよね。
林 ファンの方が何を求めているかが気になって、「すべて知らないとダメだ」と思い込んでいたので、すごく勉強になります。何を言うか、もしくは言わないかといった取捨選択を、現場の空気を読みつつ行う技術が、古家さんは本当に素晴らしいです。臨機応変ということでいうと、イベント中は何を意識されていますか?
古家 K-POPや韓流スターのファンミーティングの場合、日本公演であっても、基本的にイベントは、韓国制作であることが最近は多くなっています。ワールドツアーの一環で日本に来ることが増えているからです。なので、舞台監督さんや作家さんはもちろん韓国の方々なのですが、韓国の場合は、イベントをテンポよくというよりは、少しでもスターとの接点を増やすため長時間になる傾向がある一方、日本だとむしろテンポのよさが求められるんです。
だから、公演中に運営から「ここをもっと掘り下げて」という指示が飛んできても、それをすべて汲んでいたら絶対に時間が延びてしまうので、自己判断でスルーするケースも往々にしてあります。もし時間が超過して、予定していたコーナーができなくなってしまうことはあってはならないので。全体を見て、必要なことを優先させるようにしていますね。
林 ラジオDJをされているなかで磨かれた“時間の感覚”も活かされていらっしゃるんですね。n.SSignさんのファンミーティングのMCで一緒にお仕事させていただいたときも、古家さんにすべてお任せ状態で、時間調整の面でも救っていただきました……。すごく俯瞰的な視野をお持ちですよね。
古家 あと、なるべく自分はしゃべらないようにして、スターがしゃべれる機会を作れるようサポートすることを意識しています。個人的には、それがMCの務めだと思うからです。
林 私は、“間”が怖くてすぐにしゃべっちゃうんです。
古家 それは、テレビ的な感覚だと思います。放送業界では、間が空きすぎると放送事故につながってしまうから怖くて当然ですよ。僕も基本的にはラジオ人なので、その感覚、すごくよくわかります。でも、イベントだと逆に、その“間”が大事なんです。そのスターが好きで集まっている人しか会場にいないから、返答を考えている姿も見て楽しめるし、間にも“本人らしさ”が出るから。
林 古家さんは、聞くのがすごくお上手ですよね。MCだからしゃべるお仕事かと思いきや、実は聞き出すのが本業というのが、お仕事ぶりを通じてわかります。
「若いくせに」と言われて傷ついた30歳
林 古家さんって、いまだに悩むことってあるんですか?
古家 いっぱいありますよ! MCって滞りなく進行して盛り上げるのが当たり前の仕事だから、褒められることがあまりないんです。正直それがすごく悲しくて。「古家さんに任せとけば、なんとかなる」ってみんな言ってくれるけど、僕だって大失敗する可能性はあるし、イベントを成功させるっていうことを当然のように期待されるのが、正直ずっとプレッシャーなんですね。それで一番悩んでいたのが、コロナ前の2018~9年くらい、林さんに初めてお会いしたころですよ。
林 ええっ⁉ そうなんですか……そんなことまったく感じられませんでしたが、戦っていらっしゃったんですね。
古家 林さんも、同じような葛藤あるでしょう?
林 たしかに、アナウンサーは比較的ケアはされているほうだとは思うんですけど……たとえばバラエティ番組でコメントをするにしても、そのひと言の裏には演者さんのことを調べたりといった蓄積があるものですが、もちろん誰にも感謝されないわけで。それはやっぱり、たまにはしんどくなるときもあります。楽しい仕事ですけど、「なんかもうちょっと感謝されてみたい……」という思いが頭の中をよぎったりはしますね。
古家 わかるなぁ。僕、今の林さんと同じ30歳のころが一番仕事に悩んでいた時期だったんですよ。当時、ラジオの朝帯をやっていて、もともと時事に興味があったから、そういう話題に触れたら「若いくせに、わかったようなことを言うんじゃない」という苦情が来たりして、すごく傷ついて。それ以来、しゃべる言葉を全部台本に書いてから番組に臨むようになったこともありました。
林 「若いくせに」。そうなんですよね、30代前半ってまだまだ説得力を身につけるのが難しいから、そういう心ない声も少なからずあります。
古家 でもね、そのあと大阪のラジオ局で朝帯をやることになって、同じやり方をしていたらディレクターさんから「古家さんって、普段話すとめっちゃおもしろいのに、番組だとつまんないですね」って言われたんですよ。その言葉で「そうなんだ、自由にしゃべっていいんだ」って目覚めて。実は僕、関西に仕事で住んでいたころに経験したことが、かなり今の自分の形成に大きな影響を与えているんですね。
林 そうそう! 古家さんって、アーティストさんのボケに返すツッコミもすごくお上手じゃないですか。それも関西仕込みなんですね。アナウンサーって、わりとツッコミの役割を期待される機会も多いんですけど、それも悩みなんです。私自身は自分をボケだと自覚しているんですが、自分をなくしてやる私のツッコミって、けっこうキツく聞こえてしまうのか、怖がられることが多くて。古家さんはツッコむけど、印象が柔らかいです。
古家 ここでも一番大事なのは、相手の話をよく聞くこと。ツッコみっぱなしが一番冷たく見えるので、そのあとに相手が何を言ったかをよく聞いて、大きくふくらませてあげるんです。正直、林さんは進行に一生懸命になりすぎて、相手の返しをよく聞いていないでしょう?(笑)
林 よくおわかりで……!! ツッコミのあとに、返しを受け止めることが重要なんですね。
古家 「聞いて、受け止める」を2025年の目標にしたらどうですか? それができたら、仕事がもっと楽しめると思いますよ。
林 古家さんには、全部見抜かれてる(笑)。
“やったことないことをやる”が大事。最終目標は「ファンミ開催」!
林 それでは最後に、古家さんが掲げる今後の野望についてもお聞きしたいです。
古家 「後継者を育成しないの?」とはずっと言われていて、そこにかなり固執してきた時期もあったんです。でも最近は、ちょっと違うビジョンが見えてきたというか……誰かを育てるのではなく、自分と同じような波長で協働できるクリエイターを集めてチームを作るほうが、性格上向いているかなって。そうしたら、今抱えている僕の負担も軽減するでしょうし、それが果てには後継の育成にもつながっていくのかなって。林さんは、野望ありますか?
林 私は、今年中に人気(笑)アナウンサーになって、テレビ朝日アトリウムでファンミをやります。で、そのイベントMCを古家さんにお願いする……というのが野望です(笑)!
古家 ……なるほど(笑)。え、でも本当にやったら?
林 いいんですか!?
古家 誰もやったことのないことをやるって、すごく大事ですよ。僕も、これまで自分が主役になることをあえて避けて生きてきたんだけど、去年、タレントで、俳優で、同業者でもある藤原倫己くんとファンミをやってみたら楽しくて、意外といいもんだなって。だから林さんも、この連載の最終目標を「ファンミ開催」にしてみてもいいかもね。
林 すごい、古家さんとお話しできたおかげで連載のビジョンまで見えてきました! 今日は本当に夢のような時間でした。あと、聞くべきことはないかな? 何か忘れているような気がして、不安……。
古家 あ、またしゃべりながら次のことを考えてる(笑)。最後にひと言だけ、相手が話しているときに、台本に目を移す悪いクセを今年中に克服しましょう!
林 言われたそばから……!! 絶対に直します。親より心に響く、古家さんの言葉を胸に!
林美桜の取材後記
古家さんは日本でK-POPを広めた先駆者であるすごい方なのに、どんな人にも謙虚な姿勢で向き合う一面もお持ちです。
今回のインタビューで、古家さんのすごさを引き出したいと思っていたのに……結局自分の話ばかり気持ちよく聞いていただいてしまったような気がします。反省……。さすが名聞き手です(古家さんご自身は“MC”よりも“聞き手”という肩書のほうがしっくりとくるそう)。アーティストさんや俳優さんが、古家さんにはなんでも話したくなる気持ちがわかりました。
私は仕事で行き詰まったとき、古家さんの著書『K-POPバックステージパス』(イースト・プレス)を読みます。古家さんがK-POPに出会ってから今のお仕事に携わるまでの歴史が書かれているのですが、古家さんの行動力や苦労には目を見張るものがあり……。
それだけでもすごいですが、その原動力が自分のためではなく「自分が魅了されたKカルチャーを、自分以外の人にもぜひ知ってもらいたい。誰かとKカルチャーとの架け橋になれたら」という他者への優しさであることに驚かされます。
そんな分け隔てなく与えてくださる温かい優しさは、アーティストさんや俳優さん、そして観客の私たちにもいつも届いていて、古家さんのMCだからこそ叶う出演者とファンをつなぐ愛のあふれるイベントになっているんだなと思うのです。
↓まだお読みでない方はぜひ!(書影ビジュアルが一新、重版が決まったそうです)
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781621456
古家さんなしでは、Kカルチャーに魅了されている私は存在していなかったです。
本当に감사합니다.(ありがとうございます)
最後に、今回、古家さんからアドバイスまでいただけて、 今までで一番大きな夢が叶った気持ちです。個人的に、31歳になる今年が自分のターニングポイントになると思っているので、そんな年を古家さんとの対談で幕開けできて、すごく気合いが入りました! がんばります!!
▼古家さんの仕事流儀をもっと知りたい方はこちら!
古家正亨「透明な存在でありたい」韓国カルチャー伝道師の“譲れない哲学”
次回は、古家さんファン必見「50の質問」をぶつけてみました。古家さんの仕事観からプライベートまで深掘りしちゃいます!
文=菅原史稀 撮影=MANAMI 編集=高橋千里