お陰さまで東京でも大好評をいただいているオペラ「キャンディード」も残すところ今日の本番で千秋楽となります。全10回公演、稽古も入れると1ヶ月以上の間、素晴らしい仲間と作り上げてきた舞台なので、皆と別れるのは本当に淋しいです。一方、この「キャンディード」の兵庫、東京公演の合間に、次のプロジェクトとなる、YPC（佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサート）の稽古も行いました。こちらも子供達にオーケストラの醍醐味を伝えたい一心でなかなか盛りだくさん、ハードな内容になっています。冒頭のコープランドの「市民のためのファンファーレ」から最後のマーラー「交響曲第五番」まで、オーケストラはエンジン全開で演奏します。僕にとって、師レナード・バーンスタインの没後20年はとても大きな意味があります。晩年に彼から多くの教えを直接受けた者として、彼の功績を次の世代にきちんと伝える義務が僕にはあるからです。ですから、この「キャンディード」公演と「YPC」は、バーンスタインイヤーである2010年のプロジェクトとして、僕の中では切り離せないものです。バーンスタインの魅力は、いくら語っても語り尽くせないように思いますが、この夏の公演を通して、一人でも多くの人に、偉大な音楽家の残したものを伝えたいと思っています。

　さて、今回の放送で金聖響さんの指揮で演奏された、マーラーの交響曲第一番「巨人」は、僕が子供のとき一番最初に買ったレコードで、これこそバーンスタインによる録音でした。1960年にバーンスタインがマーラー生誕100年（今年は150年です）を祝って、ニューヨーク・フィルハーモニックと大きなキャンペーンを行った時のものです。まだ小学５年生だった僕ですが、すっかりこのレコードに夢中になり、かってに音楽に物語を作って、毎日聴きまくっていました。僕の想像の世界では、この曲にゴジラが出てきたり、ウルトラマンが登場したりしていました。1970年、大阪万博で来日したバーンスタインはNYフィルとマーラーの交響曲9番を演奏し、79年の来日ではこの「巨人」交響曲を演奏。さらに85年にはイスラエルフィルと「９番」の奇跡の名演を行います。面白いことに、この70年代ごろから日本のオーケストラも本格的にマーラーの交響曲に挑戦し始め、今ではどのオケもオケの技量を図る試金石のようなレパートリーとして、非常に力を入れてしばしば定期演奏会などで演奏されています。レコードでマーラーを聴いていた僕が、初めて日本のオーケストラで生のマーラーを聴いたとき、正直どれだけがっかりしたことか…。その当時マーラーはまだまだ難解な現代曲として敬遠されていたのでしょう。けれど、このころから明らかに日本のオーケストラのレベルが上がっていったのも確かです。こんなところにもレニーの功績が影響を与えているように思います。さあ、キャンディードの千秋楽バッチリ決めて、天国のレニーに良いところを見てもらい、多いに喜こんでもらいます！