今週は「ヴァイオリンの名曲を奏でる音楽会」。五嶋龍さんと名演奏家たちによる共演で、多彩な名曲をお聴きいただきました。世界最高峰のヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフ、2000年のショパン国際ピアノ・コンクールを最年少で制したユンディ・リ、実は龍さんが幼かった頃からの仲だった葉加瀬太郎さん、そして今世界が注目する若きマエストロ、アンドレア・バッティストーニとのフレッシュな共演。いずれ劣らぬ名場面がそろっていました。
本日の4曲中、最初の3曲はいずれもヴァイオリニストが生んだ名曲だといえるかと思います。ヴィエニャフスキは19世紀を代表するヴィルトゥオーゾ。作曲家である以上に、演奏家として名声を獲得していました。その演奏は完璧な技巧と温かく豊かな音色を持ち、燃えるような熱情を兼ね備えていたと伝えられます。奏者の技巧を際立たせる「2台のヴァイオリンのための奇想曲」は、そんな名演奏家ならではの発想で書かれた作品といえるかもしれません。
ショパンのノクターン第20番遺作は、本来はピアノ・ソロで演奏される曲ですが、往年の大ヴァイオリニスト、ナタン・ミルシテインがこの曲をヴァイオリンとピアノのために編曲しました。ショパンはヴァイオリンのために曲を書いていません。しかしヴァイオリニストもショパンの曲を弾きたい、ということなのでしょう。やはり、これもヴァイオリニストが生んだ作品です。
「名演奏家が自作を演奏し、新たな名曲を世に広める」という点では、葉加瀬太郎さんもヴィエニャフスキと同じ。「情熱大陸」は、現代に誕生した新たな名曲です。
最後に演奏されたのはプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。プロコフィエフはヴァイオリニストではなく、卓越したピアニストでした。龍さんが「ヴァイオリンのアクセントがスムーズでなく打楽器的」と述べた箇所がありましたが、そういえばプロコフィエフのピアノ作品には楽器を打楽器的に扱う場面が数多く見られます。ピアニスト的な発想がヴァイオリン協奏曲にも活かされているのかもしれませんね。
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ヴァイオリンの名曲を奏でる音楽会
五嶋龍の音楽会
今回は「五嶋龍の音楽会」。ヴァイオリニスト五嶋龍さんを改めて知っていただくために、「現代音楽」「同世代」「ゲーム音楽」「練習」「ユンディ・リ」「アップデート」というキーワードに即して、6曲がとりあげられました。これまでに番組を通じて龍さんが出会った音楽家たちや楽曲について、龍さんがどんなふうに考えているのか、とてもよく伝わってきたのではないかと思います。
久石譲さんの作曲と指揮、龍さんのヴァイオリンによる番組オープニング・テーマ Untitled Musicを、久しぶりにフルバージョンで聴くことができましたが、やっぱりいい曲ですよね。フレッシュで、勢いがあって、心が浮き立つような音楽です。龍さんのイメージにぴったりではないでしょうか。
龍さんと同世代の音楽家との共演を聴けるのも、この番組ならではの楽しみ。龍さんは「普段の生活では同世代の音楽家たちと接しあう機会はまったくない」のだとか。若くして国際的に活躍する音楽家にとっては、共演者はずっと年上ということがほとんど。日本の同世代を代表する気鋭の演奏家たちとの共演は、大きな刺激を与えてくれるにちがいありません。
ハーバード大学卒、空手三段、幼少時から脚光を浴びるヴァイオリニスト。そんな龍さんのプロフィールからすると、実はゲーム好きだというのが意外ですよね。ゲームを語るときの龍さんの熱さは本物です。「ハマるゲームは製作者が心を込めて作ったゲーム。そういったゲームはすばらしい作品であり、アートでもある」というのが龍さんの持論です。
本日の最後に登場したのはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番。龍さんが司会となってこの番組で最初に演奏した楽曲で、選曲にも照明効果にも龍さんのアイディアが反映されています。古典の引用からはじまりながら、独自の音楽世界を作り出すこのイザイの作品ほど、龍さんの「音楽に対する視野・視点をアップデートする」という姿勢を体現した曲もないでしょう。ただ新奇さを追い求めるのではなく、見慣れた光景が違ったものに見えてくるような視点の転換を迫る。これはまさに過去の大作曲家が行ってきたことでもあり、その積み重ねがクラシック音楽の歴史になっているともいえます。その意味では、龍さんのおっしゃることは音楽家の本道そのものだな、と感じました。
ユンディ・リによるショパンの音楽会
ユンディ・リがショパン国際ピアノコンクールで第1位を獲得したのは2000年のこと。史上最年少での優勝はセンセーションを巻き起こしました。それから15年が経った今年、第17回ショパン国際ピアノコンクールでは、ユンディが史上最年少で審査員を務めています。審査員席にユンディがいるというのは、なんだか不思議な感じもしますよね。
5年に1度開催されるショパン国際ピアノコンクールは、ほかのどのコンクールよりも大きな注目を集める特別な存在です。なぜそうなのかといえば、やはりすぐれた優勝者を輩出しているからでしょう。特に第6回(1960年)でマウリツィオ・ポリーニ、第7回(1965年)でマルタ・アルゲリッチという歴史に残る偉大なピアニストを世に出したことは、コンクールにとっての大きな栄誉といえます。
そんなショパン国際ピアノコンクールも、1990年代には苦難の時代を迎えました。1990年と1995年の2回のコンクールで、続けて第1位を出すことができなかったのです。コンクールでは、第1位にふさわしい才能がいなかった場合に、このように第1位を空席として、第2位を最高位とすることがよくあります。コンクールは若い才能を発見できるからこそ、その権威を保てるもの。2回続けて第1位を出せなかったショパン国際ピアノコンクールは、これからどうなってしまうのか。多くの人がコンクールの行方を案じました。
そして、2000年に15年ぶりとなる第1位を獲得したのが、ユンディでした。15年ぶりの第1位という印象が強烈だったせいでしょうか、近年のショパン国際ピアノコンクールの優勝者というと、いまだにまっさきにユンディの名を思い出してしまいます。
本日はユンディと五嶋龍さんの共演が実現したのもうれしかったですね。名ヴァイオリニスト、ミルシテインが編曲した、ヴァイオリンとピアノ版のノクターン第20番(遺作)。原曲のピアノ独奏とは一味違う、清新なロマンティシズムが伝わってきました。